TNFDとは?TCFDとの違いや事例、必要とされる背景を解説
2026.6.26
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目次
近年、企業経営における最優先課題として「気候変動」に加え、「自然資本(ネイチャー)」への対応が急速に注目を集めています。
先行して普及したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に続き、現在は自然関連のリスクと機会を評価するTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応が、投資家やステークホルダーの関心が高まりつつある領域として注目されています。
しかし、「TNFDとTCFDは何が違うのか」「具体的にどのようなステップで開示を進めれば良いのか」といった多くの声が聞かれます。
TNFDは単なる情報開示の枠組みにとどまらず、適切に対応することで財務的なリスクを回避し、新たなビジネス機会を創出するための経営戦略そのものです。
この記事では、TNFDの基本概念やTCFDとの違い、日本企業の最新事例を分かりやすく解説します。
さらに、TNFDやTCFDへの対応において避けては通れない「脱炭素」のアクションを、初期費用ゼロで実現するための具体的なソリューションについてもご紹介します。
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TNFDとは何か
TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)とは、企業や金融機関が自然環境の変化や生物多様性に関するリスクや機会という情報を適切に評価・開示するために設けられた国際的なフレームワーク、およびその組織を指します。
TNFDが設立された理由
TNFDは、2021年に発足し、2023年9月に最終提言(v1.0)が公表された比較的新しい枠組みです。
その設立の背景には、林業や農業、航空・観光、不動産等、あらゆる産業が直接的またはサプライチェーンを通じて「自然資本」という大きな恩恵に依存しているという事実があります。
このまま自然破壊が進めば、将来的に多くの産業で事業継続が困難になるという危機感から、経済に大きなダメージが出る前に企業が自主的に自然を守る行動を取れるよう設立されました。
企業が自然環境に良い影響をもたらす方向へ資金を使うよう促し、生態系の保護や自然回復力を高めることを目指しており、投資家が適切な投資判断を行うための重要な材料としても機能します。
TNFDに似たTCFDとは
TNFDに似た組織として、TCFD(Task Force on Climate-related Financial
Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)があります。
TCFDは、気候変動が社会の安定や企業の業績にどう影響するかを知るためのフレームワークです。
分かりやすく言えば、TNFDが「生物多様性に関連するリスク」、TCFDが「気候変動に関連するリスク」、となり、TCFDはTNFDよりも先に提唱された概念です。
TCFDは2017年6月に最終報告が公表されています。
TNFDとTCFDの違い
TNFDは、すでに多くの企業が取り組んでいる気候変動のルール「TCFD」をベースにした自然・生物多様性版です。企業が「気候」と「自然」の情報をセットでスムーズに報告できるように、あえてTCFDと同じ言葉や仕組み(4つの柱など)を採用して作られています。
大きな違いとしては、TCFDが「温室効果ガス排出量」という世界共通の尺度で測れるのに対し、TNFDの対象である自然や生物多様性は「地域性」に強く依存するため、地域ごとに異なる多様な生態系を多角的・多面的に評価する必要がある点です。
2023年に最終提言v1.0が発行された
2023年9月18日に発行されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言v1.0について解説します。
TNFD最終提言は、企業や金融機関が「自然に対する依存関係、影響、リスク、機会」を評価し、開示するための世界的な枠組みです。
大きく分けて以下のポイントを押さえておくと理解しやすくなります。
情報開示の「4つの柱」と「14の推奨事項」
TNFDの開示フレームワークは、気候変動の開示枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様に、以下の4つの柱と、それに基づく14の開示推奨事項で構成されています。
4つの柱とは、「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「測定指標とターゲット」であり、それぞれに開示推奨事項が「3」ないし「4」事項設定されており、合計で「14事項」とされています。
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)等のグローバル基準とも整合性が取れるように設計されています。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| ガバナンス | 自然関連の依存、影響、リスクおよび機会に対する、取締役会の監督体制および経営陣の役割。 |
| 戦略 | 特定された自然関連の事項が、組織のビジネスモデル、戦略、財務計画におよぼす実際の、または潜在的な影響。 |
| リスクとインパクトの管理 | 自然関連の依存、影響、リスク、機会を特定、評価、優先順位付け、および管理するためのプロセス。 |
| 測定指標とターゲット | 重大な自然関連事項を評価・管理するために用いる指標(メトリクス)および目標(ターゲット)。 |
実践のための「LEAPアプローチ」
企業がいきなり開示を行うのは難しいため、自然関連の課題を段階的に評価するための統合的なプロセスとして「LEAPアプローチ」が用意されています。
以下の4つのステップの頭文字をとっています。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| Locate(発見する) | 自社の事業やバリューチェーンが、自然とどこで接点を持っているか、依存や影響が大きい場所を特定します。 |
| Evaluate(診断する) | 自社の活動が自然にどのくらい依存しているか、また自然に対してどのような影響を与えているかを分析します。 |
| Assess(評価する) | 特定した依存や影響から生じる、自社への「リスク」と「機会」を特定し、優先順位を決定します。 |
| Prepare(準備する) | リスク管理や資源配分の戦略を決定し、開示に向けた準備(目標設定や報告)を行います。 |
豊富な「追加ガイダンス」によるサポート
TNFDでは、基本となる開示提言を補強し、実務を強力にバックアップするための多様な追加ガイダンスが発行されています。
まず、実務の第一歩を支援するものとして、具体的な対応方法をまとめた「Getting started with TNFD」が用意されています。
さらに、特定の生態系(バイオーム)に特化したガイダンスや、シナリオ分析の具体的な手法、科学的根拠に基づく目標設定(SBTs for
Nature)の手順等、専門性の高い解説も充実しています。これにより、各企業は自社の状況や事業特性にあわせて、これらのリソースを柔軟に活用することが可能です。
総じて言えば、TNFD最終提言とは、企業が自然との関わり(依存や影響)を正しく把握し、そこから生まれるリスクや機会を経営戦略に組み込んで開示するための、世界共通かつ実践的な手順書であると定義できます。
TNFDへの取り組みが企業にとって必要と言われている背景
企業がTNFDへの取り組みを求められる背景には、自然環境に関するリスクの重大さと、それに対する企業の認識不足という深刻な乖離が存在しています。
世界経済フォーラム等の国際的な場においても、気候変動や自然資本の喪失に伴う環境リスクは、今後10年間で世界の経営陣が直面する最も重大なリスクのひとつとして位置づけられています。しかし、このようにリスクが甚大であるにもかかわらず、現状では多くの企業や金融機関において、自社の事業が自然に対してどのような依存関係にあり、どのような影響やリスク、あるいは機会をもたらしているかという実態が十分に把握されていません。
その結果、事業戦略の立案や資本配分の意思決定プロセスにおいて、自然環境に関する要素が適切に組み込まれていないという課題が生じています。TNFDという情報開示の枠組みは、こうした世界的な危機感とビジネス現場の対応の遅れを解消し、企業が自然関連の課題を経営の中核に据えるための不可欠なツールとして期待されています。
TNFDに参加している日本企業
自然資本に関する情報開示において、日本企業は世界で最も積極的な姿勢を見せています。
TNFDの推奨事項に沿った開示を行うことを宣言した「TNFD
Adopters(アダプター)」の数は、2026年現在も日本が国別で世界最多を維持しており、TNFDへの関心の高さがうかがえます。また、日本の金融機関等もTNFD関連のパイロットテストに参加し、実務面での検証やフィードバックを通じて、検討プロセスに関与しました。
日本企業の登録状況(2026年時点)
2024年初頭に発表された「アーリーアダプター(早期登録企業)」では、世界全体320社のうち日本企業が80社と全体の4分の1を占めました。
その後も参加企業は増え続け、2026年現在では200社を超える日本企業がアダプターとして登録されています。
これは、気候変動(TCFD)に続き、自然資本(TNFD)についても「開示が企業の信頼性に直結する」という認識が日本で定着していることを裏付けています。
主な参画企業
業種を問わず、多くの日本を代表する企業がTNFDへの参画を表明しています。
| 業種 | 代表的な参画企業 |
|---|---|
| 金融 | 三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、日本生命、MS&AD等 |
| 通信・IT | NTT(NTTドコモを含む)、KDDI、ソフトバンク、NEC等 |
| 製造・消費財 | キリンホールディングス、サントリーホールディングス、花王、資生堂、味の素等 |
| 建設・不動産 | 積水ハウス、大成建設、清水建設、三菱地所等 |
企業がTNFDに参画する5つのメリット
企業がTNFDに参画し、自然関連のリスクや機会を評価・開示することには、主に以下のようなメリットがあります。
メリット1. 投資家からの資金調達(ESG投融資)の呼び込み
TNFDに沿った情報開示を行うことで、企業が抱える自然関連のリスクや事業機会の「透明性」が向上します。これにより、投資家等のステークホルダーは、自然環境を持続させながら発展できるビジネスモデルを持つ企業を評価しやすくなり、今後はESG投融資の検討や投資判断において、重要な判断材料の一つとして活用されていくことが期待されます。
メリット2. 新たなビジネス機会(ネイチャーポジティブビジネス)の獲得
自然を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ経済」への移行は、企業にとって単なるコストアップではなく、自然資本に根ざした新たな経済成長につながるチャンスと位置づけられています。
日本国内だけでも、ネイチャーポジティブ経済への移行により生まれるビジネス機会は2030年時点で約47兆円規模にのぼると推計されており、情報開示等を通じた顧客獲得や新市場への参入が期待できます。
メリット3. 潜在的な事業リスク(財務的ダメージ)の回避・軽減
人間の社会活動や企業の利用する財・サービスは自然環境に依存しているため、自然が劣化すると企業は潜在的な脅威にさらされます。
TNFDを通じて自然への依存度やインパクトを把握し事前に対策を打つことで、「資産評価の低下」「営業許可の喪失」「需要の急激な変化」といった重大な事業リスクを回避・軽減することができます。
メリット4. 企業ブランド・レピュテーション(評判)の維持と向上
自然資本が毀損されたり、環境負荷への対応が不十分であったりすると、風評被害による収益減少等のレピュテーションリスク(評判の低下)が発現するおそれがあります。
逆に、自然への悪影響を回避し、保護や回復に貢献する行動をとることで、ブランド力の維持・向上を図り、企業にとっても自然にとってもプラスの状態を生み出すことができます。
メリット5. 経営のレジリエンス(適応力)の強化
TNFDの枠組みを活用し、自社の事業が自然とどのように接点を持ち、どう影響しあっているかを統合的に分析することで、気候変動や自然関連のリスクに対する組織全体のレジリエンス(回復力・適応力)を高め、持続可能な経営戦略を構築することが可能になります。
TNFDへの取り組み事例
日本国内では、事業会社だけでなく、地域経済を支える金融機関においてTNFD(特にLEAPアプローチ)を活用した分析・開示の試行が進んでいます。
事業会社における試行的な開示事例
国内のある企業では、2013年から「生物資源」「水資源」「気候変動」等の環境課題に統合的に取り組んできた土台を活かし、TNFDの「LEAPアプローチ」のフレームワークを適用しています。
水資源や生物資源が企業にもたらすリスクやチャンス(機会)を評価し、環境報告書として試行的に開示を行っています。
地域金融機関の事例(環境省パイロットプログラム)
環境省の支援のもと、地域の自然資本と密接に関わる地方銀行が、投融資先を通じた自然関連情報の分析を行っています。
滋賀銀行
琵琶湖を中心とした自然環境を考慮し、地域産業への影響が大きい「食品・飲料」や「素材」セクターを優先的に分析しました。株式会社バイオームのデータを用いて、融資先の拠点が自然植生や水質(栄養物質や有毒物質による水質汚染)にどのような影響を与えているか、市町村別や拠点別に分析を行っています。
八十二銀行(長野県)
長野県は農業(果物やそば等)や醸造業(味噌・ワイン・日本酒)が盛んであることから、「食品・飲料」を優先セクターに選定しました。分析ツール(Aqueductやハザードマップ)を用いて、融資先の事業拠点が抱える「物理的水リスク(水ストレスや洪水・浸水リスク)」や、沿岸部の富栄養化に対する影響等を特定しています。
北洋銀行(北海道)
北海道におけるGX(グリーントランスフォーメーション)や再生可能エネルギー事業の進展を見据え、「ユーティリティ等(電力・再エネ)」を優先セクターとして分析しました。融資先の発電所等の拠点が、国立公園や希少種の生息地等の「要注意地域」に隣接していないかを確認し、環境保全と開発の両立に向けたリスク管理の枠組みを検討しています。
その他の金融機関(農林中央金庫・メガバンク)の事例
農林中央金庫
早稲田大学と連携して環境影響評価手法「LIME3」を活用し、事業会社向け投融資ポートフォリオにおいて、GHG(温室効果ガス)排出量が生物多様性に与える影響を「ネイチャーフットプリント指標」として定量的に試算・分析しています。
三菱UFJフィナンシャルグループ等
GICS(世界産業分類基準)等の産業グループに基づいて、自社のポートフォリオが自然資本にどう依存し、インパクトを与えているかをマッピングして開示しています。
このように、日本企業においてもTNFDの枠組みを活用した分析や開示の取り組みが進みつつあります。こうした動きは国内にとどまらず、2023年の最終提言公表以降、企業や金融機関による採用や試行が世界的に広がっており、自然資本に関する情報開示や評価の重要性が国際的に共有されつつあります。
一方で、自然資本と気候変動は相互に関連しており、自然への影響を適切に把握・管理する上では、気候変動対策(脱炭素)もあわせて取り組むことで、より実効性の高い対応につながります。
特に、エネルギーの調達・利用のあり方は、温室効果ガス排出だけでなく、土地利用や生態系への影響とも関係する重要なテーマです。そのため、既存の建物や設備を活用し、自然環境への追加的な影響を抑えながら再生可能エネルギーを導入することは、TNFDの観点からも合理的な選択肢の一つといえます。
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まとめ
本記事では、TNFDの基礎知識から、先行して取り組む日本企業の動向、そして具体的な解決策について解説してきました。
TNFDは、自然に関する情報開示の国際枠組みであり、気候変動を対象としたTCFDに続いて、今後は生物多様性や自然資本への依存、および影響を明らかにすることが企業の持続可能性を証明する重要な要素となります。
LEAPアプローチというステップを通じて、自社の自然関連リスクと機会を体系的に評価し、その結果をガバナンスや戦略などの4つの柱に基づいて開示することが求められます。
現在、日本企業は世界最多のTNFDアダプター数を誇っており、情報開示はもはや一部の先進企業だけのものではなく、国内でも急速に広がりつつあります。
自然関連の課題を解決するためには、その前提となる気候変動対策、すなわち脱炭素経営とセットで取り組むことが不可欠です。
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