関西電力の企業立地サポート
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半導体は、今後の長期的な市場成長が見込めるだけでなく、経済安全保障上の戦略物資として政府が国内での設備投資に多額の助成金交付を開始し、投資が活発化している。本稿では、国内での投資の現状と関西エリアへの企業進出の可能性を探っていく。
24年の半導体市場は回復へ
まず、世界の半導体市場の現状に触れる。2023年の半導体市場は、スマホの販売不振や大手IT企業の投資抑制などによりメモリーが供給過剰となり価格が下落した影響で、大幅なマイナス成長となった。
しかし24年は回復が見込まれている。世界の半導体メーカーが集まって市場を予想しているWSTS(World Semiconductor Trade Statistics)によると、24年の世界市場は前年比13.1%増の5883億6400万米ドルに達すると予測している。日本円に換算すると86兆4900億円(1ドル=147円で計算)となる。23年のマイナス成長の最大の要因となったメモリーが、23年の31%減から、24年には44.8%増と大きく反転すると予測している。また地域別では、すべての地域市場がプラス成長と予測しているが、特に南北アメリカ大陸とアジア太平洋地域は、前年比2桁の成長を示すと予測している。
そして設備投資も、メモリーメーカーやファンドリー(受託生産)企業の投資が徐々に復活する方向にある。メモリーは生成AI向けで需要拡大しており、投資復活の引き金になっている。日本国内でも、後述する政府による巨額の助成金交付を受け、半導体投資は活発に行われることが見込まれている。
ただし気になるのが、能登半島地震の影響であるが、この地域に製造拠点を有するサンケン電気、東芝デバイス&ストレージ(東芝D&S)の工場が生産休止を余儀なくされた。再開にこぎつけた工場も多いが、一部は再開できていない工場もあり、今後、自動車などのサプライチェーンに少なからぬ影響が出そうだ。
なお、能登半島地震の発生にて被災された皆さまへお見舞い申し上げるとともに、復興支援に尽力されている方々に深く敬意を表します。
政府が巨額助成に舵切る
半導体は、スマートフォンやパソコン、サーバー、テレビ、家電、自動車、ロボットなど、電気を必要とするあらゆる機器に使われており、これまで「産業のコメ」と呼ばれてきた。
しかし、半導体は「部品」であるが故に、電子機器の内部に実装されて使われるものであるため、我々の日常生活で直接目にすることはまず無い。そのため、これまでは一般的な知名度が低く、マスコミでの取り扱いも日本経済新聞などの経済紙を除いては、優先度が低いのが通例であった。
だが、現在は様相が変わってきた。米国と中国の対立激化や、新型コロナウイルスの世界的流行によるサプライチェーン寸断、さらに半導体不足によって自動車などの生産ラインが休止したなどの問題を契機に、日本や米国、欧州などの主要先進国では、半導体を「経済安全保障上の戦略物資」に位置付ける動きが活発化した。半導体のサプライチェーンを強靭化させるべく、自国内での半導体工場の設備投資に巨額の助成金を投じはじめた。いまや、「産業のコメ」以上に重要な存在となったといっても過言ではない。
日本では、今は亡き安倍元首相と麻生元首相、甘利元自民党幹事長らが発起人となり、自民党内に「半導体戦略推進議員連盟」が作られ、「半導体を制するものが世界を制す」との方針のもと半導体産業への異次元の投資を訴えた。
それが奏功し、岸田首相の代になってから、政府は半導体関連企業の国内投資に巨額の助成金を交付するようになった。2022(令和4)年度第2次補正予算では、半導体関連企業への助成金として1兆3036億円もの予算を計上した。そして2023(令和5)年度の補正予算案においては、約2兆円を盛り込むことを閣議決定している。
並行して、政府は外資系半導体大手企業の誘致にも注力、世界最大の生産規模を誇る台湾の大手ファンドリーメーカー、TSMCの熊本県菊陽町への誘致に成功し、そのTSMCがソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)、デンソーと合弁で設立したJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の設備投資に助成金を交付した。
さらに、TSMCはJASMの第2工場を建設することをこのほど発表している。この第2工場は、第1工場の隣接地に建設されるものとみられる。24年に建設を開始し、27年末に稼働を開始する計画だ。第1工場と合わせた設備投資額は200億ドル、日本円にして約3兆円に達する見込みだ。
同時に、SSS、デンソーに加えてトヨタ自動車もJASMに出資することも発表している。第1工場と合わせた生産能力は月産10万枚を予定しており、比較的最先端の技術に近い6/7nmの製造プロセス技術も導入される予定だ。
TSMCが熊本県に進出したことの経済効果は大きく、20兆円にも達するという試算も出てきている。
国内勢では、トヨタ自動車やソニー、ソフトバンクなどが出資し、ファンドリー事業を行うRapidus㈱(ラピダス)が誕生した。米IBMが開発した世界最先端の2nmプロセス技術を駆使した量産を目指し、現在入社した技術者が米ニューヨーク州のIBMの研究施設でプロセス技術を開発中だ。27年までの量産開始を目指している。政府は、同社に2600億円の大型の助成金を交付することを決めているが、24年度以降も引き続き助成していくことが確実視されている。
政府はこのほか、フラッシュメモリーを四日市と北上工場で生産しているキオクシアとウエスタンデジタルの設備投資に対して、現在までに設備投資額の約1/3に相当する総額2429億円の助成金を交付している。また、パワー半導体を生産するロームと東芝D&Sに対しては、設備投資総額3883億円(うちロームが2892億円、東芝D&Sが991億円)の1/3に相当する1294億円を助成することを決めた。この両社は、パワー半導体の製造で連携することを発表しており、ロームがSiCパワー半導体、東芝D&Sがシリコンパワー半導体への投資を重点的に行うことで効率的に供給力を拡大し、それを相互に活用することになっている。
政府はこのほか、半導体材料や装置メーカーの設備投資にも助成金を交付している。
JASMの外観(出典:TSMCホームページ)
今後も異次元支援は続く
このような、日本における政府の「異次元の助成金」は、今後も当面続くものと見られる。理由は、米中の対立関係がしばらく続くと見込まれるためである。米国では、次の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲く可能性が大いに考えられるが、「アメリカ・ファースト」を掲げる同氏の政策は、安全保障に関しても自国優先主義であり、同盟国にそれなりの防衛力強化を求めていく姿勢だ。
これは防衛面のみならず、経済安全保障においても、同様のものを求めていく可能性が高い。防衛面での安全保証と同様、経済安全保障でも米国に頼らず、それぞれの国が自前でやるべき、という考え方をとる可能性が高い。
このようにトランプ氏の返り咲きが有力視されていることもあり、日本も「トランプ再登板」を前提とした対応が迫られる。バイデン大統領も経済安全保障を強化すべく半導体企業への助成金を増やしたが、これに関してはトランプ氏も継続する可能性が高いと考えられる。
半導体産業は、これまで半導体の生産に関してはTSMCに過度に依存してきた。それが昨今社会問題になった「半導体不足」の一因にもなったが、今後は台湾有事、つまり中国による台湾進攻もありえない話ではないため、日本を含めTSMCに過度に依存してきた世界の半導体メーカーやユーザーである自動車メーカーなどは、この状況を反省し、TSMCの台湾工場への依存度を低減していく必要性を強く感じている。そこで、日本はTSMCの日本への誘致と、TSMCと同様にファンドリー事業を手がける国策企業ラピダスの創設に舵を切った。そして、それを実現するため、異次元の助成金という手段に打って出たのだ。
今後も当面、日本政府はこの姿勢を維持していくであろう。国内メーカー、海外メーカー問わず、日本国内で行う設備投資には助成金をさらに出していくであろう。
ただ、この動きだけでなく、生成AIの市場拡大やDX・GX投資の拡大、自動車におけるEVシフトなどが牽引車となり、半導体メーカーの設備投資は今後再びの活況となることが予測される。
ラピダスの完成予想図(出典:ラピダスのホームページ)
後工程工場を狙うべき
半導体の設備投資はこのように今後も活発に行われていくが、果たして関西地域で半導体産業を誘致することは可能なのか。ここで、半導体企業誘致に必要なものと、関西地域の可能性に触れる。
半導体を作る工場は、多量の水や電力、そして人材を必要とする。特に、「前工程」と呼ばれる工程(シリコンウエハー上に半導体チップを作り込み工程)は、微細な異物を除去する洗浄工程が頻繁にあるため、大量の水が必要になる。
また、電力も必要だ。半導体工場は消費電力が非常に大きい。前出のTSMCは台湾に多数の工場を稼働させているが、同社1社の消費電力は、台湾の国内全電力の10%以上に達するという。しかも同社の消費電力は、スリランカ一国の消費電力を上回るという。
ただ、これらは前工程工場の話であり、前工程で作ったチップを切り出してパッケージに入れる後工程(パッケージング工程)の工場ならば、ここまでの電力は不要である。
また、後工程の工場であれば、使用する水も少なくて済む。前工程では大量の水が必要であるが、後工程は、前工程ほど大量の水を必要としない。
このことからも、今後誘致を狙うとすれば、後工程工場であろう。後工程工場が今後日本に建設される可能性は決して低くない。なかでも、最先端の半導体パッケージとして技術開発と投資が活発なのが、「チップレットパッケージ」である。
これは、従来単一のチップに集積していた様々な機能(設計資産:IP)を個別のチップとして作り込み、その個別チップをパッケージ基板(プリント基板の技術で作る半導体パッケージ用の回路基板)上で一つのシステムに作りこむもの。これにより、異なる製造プロセスで作ったチップを同じパッケージ基板上に実装でき、全てを1チップ化する場合に比べて開発スピードを上げることができる。
現在、AI用のプロセッサなどはこの手法で作られており、将来は自動車向けの高性能半導体にもこの手法が使われる可能性が高くなっている。最近では、トヨタ自動車、ホンダ、ルネサスエレクトロニクスなど12社が、車載向けのチップレット技術によるSoC(システム・オン・チップ)の開発を目指して「自動車用先端SoC技術研究組合」(Advanced SoC Research for Automotive/以下、ASRA)を設立しており、注目を集めている。
チップレットパッケージの開発・製造は、実はTSMCやラピダスなどファンドリー企業が力を入れている。また、チップレットパッケージ用の材料は日本企業が高いシェアを有する分野であり、将来的には日本にファンドリー企業のパッケージ工場が建設される可能性が考えられる。その際には、関西地区も有力候補になるだろう。
人材が豊富な点も優位
さて、半導体工場に必要な要素として、最後に挙げた人材であるが、半導体工場は自動化が進んでいるものの、それでもある程度の人員は必要だ。世界的にもそうだが、日本は人手不足が社会的問題となっており、半導体業界においても人集めにはどの企業も苦労している。
ただ、関西地域は日本国内の他地域に比べて人口も学校も多く、人材を確保しやすい環境にあるといえる。それが、半導体工場誘致の際に優位な点になることは間違いない。